ナイキ/ニケ(勝利の女神)

朝、辺りはまだ薄暗い。空はどんよりと青白く曇っている。摩天楼の中州と緑の多い人口島を結ぶ吊り橋を黒人が白く息を吐きながらTシャツにランニングパンツ姿で走っている。紺色のニット帽をかぶり、何を聴いているかはわからないが白いイヤホンをして、鼻の頭は心なしか赤い。朝のラッシュなのだろうか、脇の車道の交通量はそこそこ多くヘッドライトが眩しい。時おり、すれ違う車から大きな音量でカーラジオやラップが聴こえる。足は良くあがっていて、跳ね上がるシルバーのランニングシューズが光って見える。襟を正したくなるほど、清々しい光景である。

しかし、黒人はちらっと腕時計を確認すると突然吊り橋の手すりをひょいと飛び越えて、真下の海に足から飛び込んでいった。さしてしぶきをあげずに濃紺の海に吸い込まれてゆく。ここで視点がズームアウトする。濃紺の海が画面一杯に広がる。そして中央にはさらに濃い、ほとんど黒のような紺色で、ナイキのトレードマークが浮かび上がっている。