『東京公園』 『奇跡』

高校時代の友人と一緒に池袋文芸坐で映画を見た。文芸坐には初めて行ったのだが、いまどき珍しい入れ替えなしの映画館だった。東京の映画ファンにとっては常識なのだろうが。オールナイト上映イベントも豊富にやっているみたいだった。

1本目は青山真治氏の『東京公園』。『サッドバケイション』以降の最新作だというから、僕が彼を知ってから初めてのリアルタイムでの公開作品。また長ったらしいかもしれないと思って覚悟していたのだが、時間としてはざっくり短く終わった。ショットの構図、切り替わりのスピード、タイミングともに洗練されていて、映画を研究しつくした氏らしいだった。氏は一貫して劇ではなく、映画を撮りたいのだろう。脚本がかなり大雑把でセリフもかなり歯がゆく、鼻につく言い回しが多く、細かい部分は撮影とともにリアルタイムで決まっていったような雰囲気だった。終わり方の尻切れトンボ感も映画好きのためのシナリオ。その辺も含めて映画、どちらかといえば小規模な予算のヨーロッパ映画らしい。音楽がいつものバキバキのギターサウンドじゃなかったので、ちょっと意外。スポンサーとかの関係かなと思う。。X-knowledgeの平野啓一郎編集の巻、「パブリックスペース」というキーワードが扱われている、に寄稿した文から構想を広げていったらしいが、パブリックスペースはここ最近僕の中での注目ワードの一つなのでちょっとチェックしておきたい。デジタル撮影の処理のせいもあるのか、画の色味だとかセットだとか、前述のショットの構図と切り替えポイント以外の部分でなんとなく細部にこだわりきれておらず、よくある短期間上映のゆるふわ映画と勘違いされてもおかしくない出来なのはおいといて、榮倉奈々はミスキャストだったとおもうんだよな。

2本目は是枝裕和氏監督の『奇跡』。こちらは僕の好きなドラマが描きたいタイプの監督で、『誰も知らない』以降の作品は全部チェックしている。青山氏が個人を強調するのと対照的に是枝氏は今回も家族を描いている。前作の設定は僕の家庭環境と丸かぶりしていたのでその分を差し引くとして、今作も期待を裏切らない盤石のつくり。特に日本人の生活がリアルに描かれていて、いつもながら観察眼がすごいと思う。外国人に現代の日本人の生活がよくわかる資料を見せてほしいと言われたら是枝監督の作品を見せるつもりだ。また、夜明けの新幹線の高架沿いに軽トラを走らせるシーンはコンテクスト関係なく、映像としてグッとこみあげてくるものがあった。強いて言えば、メロディアスすぎるくるりの音楽が映画にしては少し五月蝿いといったところだろうか。離婚によって引き裂かれた兄弟の話なのだが、子供たちのひと夏の冒険の熱量やそれに付随して老夫婦の間におこった昔話のようなやさしい「奇跡」が落ち着いた後に残る、十数年後の兄弟の反目を匂わせるような冷たい空気感がせつない。テーマソングは偶然いただいたチケットで春に行ったくるりのライブで初披露されていたもの。奇しくもそのライブも同じ友人と見に行ったんだった。雨が降っていて、まだまだ肌寒い季節だった。



帰りの電車ではニール・ヤングのアルバムは何から聴けばいいんだろうかということについて調べたが、結局よくわからなかった。今年も、30度を超える日々はもうそう長くは続かないだろう。