赤いゴムボールがはねて、太陽と重なる時

セーラームーンを4話ぐらい見ました。湯船で「ミラクル〜ロ〜マンス」のメロディを思い出して、それ以外の箇所が全然思い出せなかったので、youtube で検索してみてしまいました。そこそこおもしろかったのですが、声優の声が高すぎて続けて見るには4話が限度でした。

幼稚園の頃セーラームーンの人気は絶頂で、当時の幼稚園生達のポップアイコンと言えばセーラームーンオーレンジャードラゴンボールGTスーパーマリオ64ポンキッキーズ、だったように思います。孫悟空やマリオは実際のところ、ブウやクッパパフォーマティブに戦う事でコンスタティブな意味合いではセーラームーンと戦っていたのだろうと思います。(玩具の売り上げとか視聴率とか)

当時、セーラームーンには「おんなのこのせかい」というイメージがあり、「昨日の決めゼリフ最高だったよな」などということを言おうものなら、すぐさま仲間から総スカンを食らうのであろうので、僕は怖くて見ていませんでした。ただ、「おんなのこのせかい」に気に入られた男子は一人だけタキシード仮面としてごっこに参入する事が許されていました。でも当時はあんまりうらやましくおもっていなかったような気がします。

加えて、僕はドラゴンボールも見ていなかったし、ロクヨンも持っていなかったので、オカダ君という友達と二人でスケッチブックに謎の妄想ワールドを日々書き付けて、その中を旅していたように思います。オカダ君は幼稚園児にしては絵がとてもうまく、戦隊ものの絵は家に帰って飾っておきたいなと思うくらいでした。ちなみに、僕はボーズやピエール瀧や白熊くん(小沢健二)が出てくるポンキッキーズを毎朝楽しみに見ていたのですが、ポンキッキーズ派がなかなかいなかったので、ちょっと形見が狭かったのを覚えています。

アニメの主題歌はなぜキャッチーなのかということについて少し考えてみたのですが、結果子供達を反射的に誘導する必要があるからだという結論に至りました。キャッチーな音楽は意味を通り越して気持ちが良いものです。我々が音声を感受する動物である時点で和声に対して一種の麻薬に対するのと同じような弱みを持っています。音楽を聴く事は煙草を吸ったり酒を飲んだりする事と同じことなのです。嗜好は年齢や聴く音楽の変化にあわせて様々に変容し、細分化されていくでしょうが、人間が生まれながらにして持っているメタな音に対する感受性というのは一様なんだろうと思います。

アニメの話にもどりましょう。とりあえず制作者達は、気持ちよい音楽や目立った色彩で動物を操るかのように子供達をテレビの前に座らせなければいけない。言語的に意味を解する能力が未発達な子供達を物語に引きつけるためには、刺激によって引きつけるのが一番有効な手段です。一週間に1度のお祭り騒ぎ、気持ちのよい空間を子供達に提供するために、アニメの主題歌はミサの始まりの賛美歌のような、祭りの始まりを告げるお囃子のような、そんな役割を果たしているのです。賛美歌やお囃子に共通するのはやはりキャッチーさです。老人や子供にわかりやすくて気持ちのよい刺激を提供するためにかっちりとした和声の教会音楽があり、楽しげなビートを持つ祭りのための音楽があるのです。

元来子供向けだったそのような単純で気持ちのよい仕掛けから抜け出せなくなる大人がだんだんと増えているような気がします。「オタク」ってやつです。「抜け出せない」という否定的な言葉を使いましたが、それは忌避すべき事ではないように思います。むしろカッコつけて、コーヒーを飲んだりウィスキーを飲んだりする必要がなくなった、単純な仕掛けから抜け出す必要がなくなったのです。林檎ジュースでいいちょっとお酒飲むにしてもチューハイくらいで良いやという土壌になりました。

なぜそうなったか。宗教の瓦解が大きいと思います。その虚構性を指摘される事によって、虚構を水面下で孕み持つことを支えとしていた宗教が意味を失いました。それ以後、物語、動画、音楽(フィクションを求める心、視覚的欲求、聴覚的欲求)の三者を宗教の代わりにを絡めとった究極の形がアニメーションだったのだろうと思います。ぼっとしてるだけで気持ちよくなれる上に周りの人々と話を共有できるきわめて受動的で楽しいシステムの基本形としての宗教。神話があり、偶像があり、宗教音楽があり、祭りがありました。同様にお話があり、キャラクターがいて、音楽があり、コミケやライブイベント等ファン同士の交流があります。アニメーションは現代のメタ宗教として君臨しているのだろうと思います。

同様の事は映画やMTV、アイドル産業に言える事ですが、なぜアニメがここまで一斉を風靡しているのかということは、もう少し考える余地がありそうです。

雨が降っているけれども、外よりも部屋の中の方が寒いです。3月の水です。



赤いゴムボール

魂の幸福な時

回転板のヴァイナルの上を落ちないように逆向きに駆けて、芽が息吹くのを待とう。たまに迫ってくる針のアームは赤いゴムボールみたいにぴょいと飛び越してね。