そりゃ回転木馬ぐらいで良いとも思うよ。

何度も何度も言うけれど、何度も何度も聴いても良い。たいして音楽を聴いていなかった中学時代からポールサイモンは好きだった。正確にはポールサイモンがここまで偉大な音楽家だという事を知ったのは小沢健二を聴き始めてからで、当時聴いていたのは「サイモンとガーファンクル」だけれども。ソロ活動以後のポールサイモンはよく「アルバム『グレイスランド』のおいてアフロなビートとアフリカ特有の声楽を彼の美しいメロディライティングとうまく融合させる事によって成功をおさめた」とか言われるけれど、実際デュオ時代から彼の中には独特のリズム感覚と和声があったのだろうと思う。例えば、「ボクサー」という曲を聴いていみると、アコースティックギターアルペジオリズムセクションの代わりに使っているが、彼のシンコペーションするアルペジオにはすごく独特なグルーヴ感がある。バンドサウンドによらない作曲によって「8ビートロック」的なしがらみから、ビートの感じ方から解放されていたとも言えるかもしれない。「ライラライ」のところでフェードインしてくるスネアとハイハットが余計に響く。ハーモニーもムーンムーンアワアワというアカペラから入る「diamonds on the soles of her shoes」のようなアフリカの声楽を取り入れた曲となんら断絶を感じない。まるで次の日に作ったようだ。

「50 ways to leave your lover」のスティーブガットのプレイが好きだ。「ドゥルタツ ツタツタ トン」というウラを意識させながらもエッジを利かせすぎないリズムから入り、サビでいきなり澄まし顔の8ビートに戻るという、ピエロがふざけているみたいな構成。けれどもサビの最中にもさっきのリズムが聴こえていて、どこへ行ったのかと思ったら左チャンネルから流れてくるカッティングのギターが「ドゥルタツ ツタツタ トン」を引き継いでいるのだ。こうした「ドゥルタツ ツタツタ トン」のキャッチボールによって全く異なるセクションに一貫性が備わったこの曲は、ポールサイモンのささやくような歌い方もあいまってサンプリング時代のラップを先取りしているかのようにも聴こえる。(加えてサビのメロディの方にインパクトがないというのもこの曲のポイント)


ゆったりとしつつも聴く者をインスパイアするような複雑さを孕み持つポールサイモンの曲には「回転木馬のような高速回転」という比喩がぴったりかもしれない。



最後にコシシケレリ・アフリカ。大きな栗の木の下で。