Still Crazy After All These Years

僕がポール・サイモンを好きな理由は2、3あって、ひとつは決してカロリーの高くないメロディが非常に美しいということ、薄そうでいて実は非常にビートが濃い(黒い)ということやホーン類のアレンジが絶妙だということがあげられるのだが、一番の理由は彼が僕にも聞き取れるくらい丁寧に英語の歌詞を歌うということである。そして平易な歌詞に込められる比喩がとても良い。そのことを品川駅で上を見上げて、コンコースとプラットホームが吹き抜けになっているほんのわずかな隙間を見つけ、上から物が落ちてくるのでは・・・と少し恐怖を感じた瞬間に気づいた。
昨日12時間睡眠をしたおかげで今朝は非常にいい夢が見れた。あたたかなゼリーのプールに飛び込むような夢だった。時間を間違えたせいで遅刻もしないで済んだし、衆人監視のさなか、コーヒーを床にこぼし、靴でぬるぬると伸ばしてごまかそうとするところを10人ほどの大人にしっかりと見られており、仕方なくモップなどを借りてきて掃除するふりをしてその場を取り繕ったりもした。
それでも帰りの電車の中、向かいに座っている人の顔の間に自分の顔が映り込み、ときおり光々と輝く看板にもみ消されたりするのだがそれでもしばらくは自分の顔が見えていて、なんともいえない消えてしまいたい気分に駆られた。しばらくその顔を見ていると向かいに座っているきれいな女の人と目が合い、中国人っぽいなと思ったのだが、その瞬間に片目だけ瞬きをしたような気がして、それで目をそらし、広告などを見て、今週のNumberの「言葉力」というはプロのコピーライターが決めた文句なのだとしたらプロ失格だなと考え(隣にある『自由が丘脱毛サロン』の文字に言葉の上で完全に負けていた)それでまたその人をちらっと見てみたら、また目が合って、また片目をつぶったような気がして、いや、片目をぱちくりとやっていた。彼女は次の駅で降りて行ったがしかし、あれは単なるチックだったのか、はたまたウィンクだったのか、ということを品川駅のホームまで考え続け、考え続けたあげくウィンクだったと解釈したほうが気分がよいという結論に至り、ほっとして、ポール・サイモンを聴き始めたのである。それから数時間前に友達の家で彼の高級なイヤホンをちょっと大きめの音量で試していると、世界がひっくり返るくらい音漏れをしていると指摘されたことを思い出した。普段のイヤホンでも音漏れしているんだろうかとふと申し訳ない気分になり、また今度友達に確かめてもらおうと思った。だが同時に、もうそんな機会もないことに気づいた。今日は卒業式だったのだ。そんなわけで僕は上を見上げてみたのである。